障害者福祉への理解を深める講座
12月26日、2月25日、3月21日、箕面市立船場生涯学習センターにて「みんなで考える障害者福祉啓発講座」を箕面市主催、箕面市障害者事業団運営で開催。計100名の参加がありました。
1回目は、「ろう者のオリンピック~東京2025へ~デフリンピックの魅力」をテーマに講師は前島博之さん前島奈美さんご夫婦に鳥取県からお越しいただきました。
デフリンピックは、国際的なきこえない・きこえにくいアスリートのためのオリンピックで、同大会に出場された体験談や生活、意識の変化などを伺い、その魅力に迫りました。
奈美さんは元デフバレーボール選手で現在は代表を引退され、手話を広める活動をしながら子育て奮闘中とのこと。
前半は自分の障害、聴覚障がいについてお話いただきました。みなさんにしてほしいことの例として口を読み取ることができるよう聞く人の正面で顔をみて話をする。口の動きをはっきりと、ゆっくりにする。話をしている人がわかるようにする。呼ぶときは見えるところからかるく肩をたたく、身ぶり、手ぶりを加える。(手話があるとベスト)情報がわからず、困っている人がいたら、ゆっくり大きな口を開けて話かけるか、筆談で話すことをあげられました。
「伝えたい気持ちを大切にしてほしい。聴覚障がいは目に見えない障がいで、耳のきこえ方は人それぞれです。音声のみの日常生活では情報が得られず、困る人がたくさんいます。だから手話をたくさん覚えて、積極的に関わってもらえると嬉しいです。手話が広がることで、聴覚障がいがある人とない人の共生に繋がるといいな」とメッセージをいただきました。
後半はいくつかの手話をゲーム形式で楽みながら、わかりやすく教えていただきました。また、獲得されたメダルやユニフォームの実物をみせていただき、みなさん手にとって「すごいね」とおっしゃっていました。
博之さんは、聾学校の教諭で夏季デフリンピックに3回出場されています。走高跳(2m)、走幅跳(7M3cm)、十種競技(5470点)現日本デフ記録保持者です。勝負が一瞬、ルールがシンプル、自分の成長がわかるなど陸上競技の魅力を伝えられました。年齢を重ね陸上競技を引退、現在は、ゴルフに転向。ゴルフは陸上よりも長い27年のキャリア。なんと小6でホールインワンを達成されました。日本デフゴルフ協会の強化指定選手に選ばれ、デフリンピックに向けトレーニング中だそうです。応援したいですね。
また、デフリンピックについて詳しく教えていただきました。始まりはパラリンピックよりも古く、100年前のこと、障害当事者である、ろう者自身が運営する、ろう者のための国際的なイベントで、審判の身振りやスタート合図を光で伝える装置、そして参加者が国際手話によるコミュニケーションで親睦を深められることも特徴です。しかし、デフリンピックの知名度はまだ低く、初の日本開催を機に多くの方にその魅力を知っていただきたいと感じました。
「東京2025デフリンピック」は東京で、今年11月15日~26日、70~80か国・地域より約3000人の選手が集い、開催されます。
2回目は、「障害者が安心して暮らすための災害時の備えについて考えてみよう」をテーマに佛教大学専門職キャリアサポートセンター専任講師の後藤至功さんに5年振りにお越しいただきました。後藤さんは数多くの被災地での支援活動や実態調査を実施。その成果を社会福祉分野の※BCP に活かしておられます。
阪神・淡路大震災以後、社会情勢・基盤は変化し、要配慮者支援が重点施策になっていること、これまで「自助」に頼ってきた社会政策が社会構造の変化によって「互助」「共助」そして「公助」の役割を強くし、補完をせざるを得ない状況があり、加えてアフター新型コロナを意識した災害対策の検討が必要となっています。
また、災害時要配慮者に関するトピックスとして残念ながら障害者及び高齢者の災害関連死の割合が高いそうです。
令和6年に発生した能登半島地震は、石川県内で最大震度7を観測、広範囲に被害が生じました。道路の隆起、地滑りによって生活道路や街道の通行止め、迂回を与儀なくされた影響で救援物資の搬送や災害ボランティアの活動が制約されるなどの事態になりました。また、多くの福祉施設・事業所が休止(その後廃業)や復帰のめどが立たないといった状況もありました。
お話を聞き、被災者支援制度についても混乱した中で、必要な方へ必要な情報をいかに伝え、支援できるかが重要だと感じました。
さらに、避難所から恒久的な住まいへの移行の流れについてポイントを押さえ伝えてもらいました。
不自由な避難所では衛生面での課題もあげられます。水の確保、簡易トイレ、シャワーなど便利な備品もでてきているそうです。
個人で状況に応じ、必要な備蓄・防災用品を考え、備えているとより安心だと感じました。(例:非常用電源、常備薬、お薬手帳、心を落ち着けるお気に入りのもの、防災ラジオ、オムツ、衛生用品など)
災害はいつ起こるかわかりません。でも普段から地域住民同士の自治会などつながりがあること、講義の中で住民が障害の有無に関わらず、ともに助かるための避難方法を考える映像が流れました。車椅子の高齢者がいつしか立ち上がり、一緒に地図をみて避難の検討が進んでいきました。災害時要配慮者も土地勘を活かした知見を伝え、参加者も「ここなら手伝える」といった交流が、地域の防災力を高めていけるのではと感じました。
後日談で、後藤さんと筆者は同じ職場で勤めていたことがあり、当時から熱いハートと冷静な頭で、若手のリーダーでした。講演依頼をしたときも「今、被災地へ水を届けるところ」とお忙しい中、快諾していだきました。終了後は、「話がよかった」「他の人に聞いてほしい」との声を寄せていただきました。実際に被災地へ向かい、活動されているからこそ、その言葉は人へ響くのかと思いました。
3回目は、「読書を身近に 誰もにやさしい本(LLブック)がある」をテーマにLLブックを日本で普及された第一人者である、びわこ学院大学教授の藤澤和子さんにご登壇いただきました。LLとはスウェーデン語で「やさしく読める本」を意味する略です。障害がある人、外国にルーツがある人らに読書や情報を知る権利を保障しようと、1960年代からスウェーデンではじまりました。日本でも2000年ごろから採り入れられました。
知的障害児・者の読書の課題にひらがなや漢字の習得が遅れる。読めない、あるいは読める文字が限られる。読めても内容の理解が難しい。今あることや経験したこと以外について、想像したり、考えたりすることが難しい方が多い。集中力が短い傾向がある。興味が広がりにくいなどがあるそうです。また読める(見る)本が限られる。生活年齢に応じた興味がある本は読めないことが多い。必要な情報をわかる形で得ることに難しさがあります。
そこでニーズに応じたわかりやすい図書、視聴覚資料の提供をする中の一つにLLブックがあります。特徴は、わかりやすいことばや文を使う、イラストを使う、ピクトグラム(シンボル)を使う、写真を使うといった工夫がされています。最近ではニーズが高いLLマンガが刊行されています。
次に読書を支援するための取り組みとして生駒市図書館では、毎月1度の館内整理日(休館日)にⅠ時間、図書館を知的障害者の方向けに開放し、貸し切り状態で代読や読み聞かせ、貸出などの取り組みをされているそうです。
講座当日は、「LLブック紹介コーナー」を設け、実物をみていただきました。これらの本は箕面市立中央図書館で貸りることができます。
印象的だった点は、障害当事者にとって本を読めないのでなく、読める本が少なかったということ。さらにLLブックはやさしく読めるが、幼い内容ではないこと、生活年齢に応じた内容がわかりやすく書かれていることも特徴です。
一方、LLブック自体は数が少なく、価格の課題もあるとのことでした。図書館や学校図書室にLLブックや※DAISY版(デイジー)図書、大型活字本、オーディオブックなどがさらに広がり、代読や図書館利用など、だれもが読書に触れる機会があって、経験や自己選択の機会も増えることを期待したいです。
なお、箕面市では、障害がある人もない人も、誰もが暮らしやすいまちづくりをめざし、令和5年度に「箕面市手話言語条例」及び「箕面市障害者情報コミュニケーション促進条例」が制定されています。障害のあるかたとのコミュニケーションに役立つ講座(手話や要約筆記、音訳など)やサークル活動があります。興味がある方は箕面市健康福祉部障害福祉室へお問い合わせください
☎072・727・9506
写真版LLブックの紹介
オリジナルLLマンガ第一弾
つたえたい きもち
津島 つしま 著
吉村 和真・藤澤 和子(LLマンガ研究会) 監修 出版 樹村房 定価1,650円
今年度も障害者福祉に関心を持っていただけるような企画を考えていきます。どうぞご期待ください。
最後にいただいたアンケートを紹介します。(掲載の都合上、一部加筆、修正しています)
1回目
・「デフリンピック」をはじめて知りました。聞こえないことで、学生時代に苦労をされたけれども、デフリンピックで大変活躍されて、すばらしいと思いました。
・聴覚障害者の方と話す時の工夫を教えて頂き、勉強になりました。手話も勉強したいです。
・「デフスポーツ」「デフリンピック」について学べました。以前に職場で受講した手話を思い出し、早速、下の階の図書館で手話の本を借りて帰りたい。
・お二人のお話は、ろう者、健聴者関係なく、大切な事だと思いました。文化やコミュニケーションに理解があるのは、世界共通で必要な事ですね。
・ろうの方が普段、日常生活や社会生活で、どのような困難があるのか、私たちがどのように行動すると、ろうの方が過ごしやすくなるのか、よく分かりました。あいさつの手話は楽しく学べました。
・前島夫妻のお話を聞くまで、耳が不自由な人は補聴器をつければ聞こえると思っていました。音が聞こえても何を言っているか分からないと言うことも初めて知りました。今までろう者の方に出会ったことがなく、勉強になることが多かったです。
・数年前に手話教室でデフリンピックの話を聞いて興味を持ちました。今回、選手として出場された方からお話が聞くことができ良かったです。
・後ろからいきなり肩をたたかれても(聞こえない人も同じ、だれでもびっくりしてしまいます)私もやってしまっていました。今まで気が付かなかったことを知りました。
・デフリンピックの事を、くわしく知れて勉強になりました。
・前島さんお二人とも、ゆっくりわかりやすく、説明されて良くわかりました。手話通訳、要約筆記の方々ありがとうございました。
・デフリンピックの話をもっと聞きたいです。
2回目
・ 地域で避難時のこと、防災について話し合うことがとても大事だと感じました。
・発災時にどれだけ避難が必要な方を支援できるかは普段からきめ細かな関わりが必要であると思いました。また備蓄や防災用品も画一的でなく、個別で考え準備しておくとよいなど具体的な話が役立ちました。
・今できることと、これから何ができるかを考える機会になりました。
・能登での発災から避難生活まで、当事者がどのような状況にあったのかリアルな体験談は説得力がありました。
・福祉避難所から個別避難計画まで、箕面市の課題にも直結するような話を幅広く聞けました。
・災害時は障害者・高齢者の避難の難しさとどのように対応するかの準備が必要であることを知りました。
・当事者も受け手でなく、主体的に関わることへの大切さに共感です。
・要支援者をどう助けるかの議論ではなく、要支援者を含めみなが助かるために何が必要かを考えるように地域住民が主体的な話し合いを行う実践を聞き、実現したいと感じました。
・コミュニティの中で防災を進める。つながることの大切さ、皆で助かるためにともに防災について考えることが大事だと思います。
・災害時に利用できる避難所の種類や、指定福祉避難所の制度ができたことなど新しい知識を得ることができました。
3回目
・LLブックを念頭に図書館や本屋巡りをしてみたいと思います。
・知りたい気持ちを埋めるため、読書をみんなができる世の中になるといいですね。
・マンガなど意識せず読めていたものも、人によって難しいことを知りました。
・今日手にとったLLブックは、イラストを並べるだけでなく、矢印をつけるなどわかりやすくしていました。
・障害当事者の話を聞くことは大切だと思います。
・「代読」というものを初めて知りました。
・色々な工夫がされた本で障害者の方々も読書を楽しむことができる元を知れてよかったです。生駒市の読書を支援するための取り組みが興味深く、他の地域で広がれば良いなと思います。
・「文字拡大」「ルビうち」「さわる絵本」など知っていましたが、「当事者に届いているかが課題です」と講師がおっしゃっていましたが同感です。
・障害を持った方が本やマルチメディアを用い、多くの情報に触れられることを深く知ることができました。本が生きる知識だけでなく、好奇心や心を豊かになるものだと再認識できました。
※箇所の説明等
BCP…災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画のこと
DAISY…視覚等に障がいのある方のために作られた録音図書
他「障害」の標記については、資料原文まま引用しました。