「働く」ことを軸に障害者のノーマライゼーションを目指す
大阪府箕面市稲1丁目11番2号

ともに働く現場から⑤ 「『雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業』への期待」

Eさんは、脳性まひによる重度障害があり、車いすを利用している、勤続25年目の職員です。
仕事は、パソコンに繋いだビッグスイッチを右手ひとつで押すことでキーボード替わりにしてパソコンを操り、
ホームページへ掲載するブログ原稿の作成などをしています。
そのブログを通じて、重度障害者が働くことについて発信することで、
「障害者雇用への理解と関心を深めてもらうための啓発活動」の一端を担ってもらっています。

今回は、Eさんが、「職場で痰吸引をして欲しい」と希望されたことをきっかけに、
職場内で協議した内容について、お話しをしたいと思います。

Eさんは、全身性の身体障害があるため手足を動かすことは難しいのですが、
右手だけは、ある程度自分の意思で動かせます。
また、食べ物を飲み込むことも難しく、少しでもスムーズに飲み込めるように、
ヘルパーさんが調理された献立をミキサーにかけた後、更に食べやすいように「とろみ」をつけています。
けれど、このように調理した食事を食べていても、どうしても食事中にむせてしまうことが多くあります。
過去には、むせた事が原因で※1誤嚥性肺炎になったこともありました。

食事中にむせる原因のひとつとして、食事をしている最中に痰が喉にからんでしまうことが考えられました。
痰がからんでも、自分では痰をきることが出来ないためです。
食事は、全介助で介助者がスプーンを使って食事を口へ運ぶのですが、痰が口の中に溜まってくるのがわかるので、
その度に口を拭いたり、口の中に溜まってしまった痰をティッシュでかき出したりしています。

このような状況での食事について、医師から
「※2胃ろうに切り替えたほうが良い」と言われたこともあったたようですが、Eさんは、やはり
「食事は何とか口から食べたい」との希望が強いので、工夫を凝らして今の食事スタイルを続けています。
そのため、次にまたいつ誤嚥性肺炎をおこしてしまうかわからず、Eさんはもちろん介助者にとっても不安な状況にあります。

このような事から、Eさんが痰吸引を希望された気持ちは、介助にあたる職員みんなが、とても良く理解できるものでした。
しかし制度上、医師の指示がなく、研修も受けていない介助職員が、職場で医療的行為にあたる痰吸引を行うことはできません。
また、訪問看護など、公的な支援を仕事中に受けることもできません。

 

 

 

Eさんは、職場でも自宅でも、全ての面で介助が必要です。そのため、職場では専任の介助者を配置して、
通勤のための送迎や移動、Eさんがパソコン入力するための機器のセッティング、食事介助やトイレ介助までをおこなっています。
採用当初は、「重度訪問介護サービス利用者等職場介助や通勤援助助成金」を活用していましたが、支給期間には上限があるため、
現在は助成金の受給はしていません。
自宅では、ほぼ24時間、公的な介護ヘルパーがついて介助をおこなっています。

このように、全介助が必要な重度障害のある人が長い期間就労することは、これまで想定されていなかったと思われます。
しかし、重度訪問介護が必要な重度障害のある人が国会議員になったこと等がきっかけとなって、
雇用施策と連携した福祉的施策として「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」が令和2年10月から開始されています。
企業が障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用しても支障が残る場合や、重度障害者等が自営業者等として働く場合等で、
自治体が必要と認めた場合に支援されます。

今後も施策の動向を踏まえ、本人の想いや代弁を通し、重度障害者が働く上での課題について、考えていければと思います。

※1水や食べ物などが気道に入ることがきっかけとなって、主に口の中の細菌が肺に入り込んで起こる肺炎。
※2胃に小さな穴を開け、外から直接栄養を注入する方法。