シリーズ初回となる今回は、23年ぶりに採用した障害者職員Nさんの、通勤手段についてのトピックスを、雇用側の立場からご紹介します。
Nさんは、就職するまでは、自宅から徒歩で通える通所施設を利用していて、
普段の生活でも一人で公共交通機関を利用する機会はありませんでした。
しかし、就職後に家から職場まで通うためには、直線距離でも3㎞以上あるため、
公共交通機関のバスを利用する必要がありました。
これまでにバスを利用する機会は、休みの日にヘルパーさんと一緒に乗車する程度でした。
就職が決まる前には、まず職場実習があり、それまでにバスに一人で乗って職場まで
行き帰り出来るようになっておく必要がありました。
そこで早速、通っていた施設の職員と一緒に、バスに乗る練習を始めました。
はじめは施設職員と一緒にバスに乗り降りし、運賃の支払いはICカードで行う練習をしました。
実は10年余り前に、同じ場所へ職場体験実習に来るために同じルートのバスで
乗車練習をするかどうかを検討した事があったのですが、
その時は、一人での乗車は難しいだろう、と断念し、徒歩で通える別の実習場所へ行く事になりました。
しかし今回は、乗車練習を繰り返した結果、最終的に施設職員がNさんにわからないよう
遠くから見守る中、下車するバス停の間違いはなく、ICカードでの運賃の支払いもクリアして、
一人でバスに乗ることができるようになりました。
そしてNさんは、※自閉症の障害特性から、一度習得した事は、正確に繰り返すことができるので、
勤務開始してからこれまでの期間、大きなトラブルは無く通勤していて、就職して6か月経った今では、
バス通勤出来ることが当たり前のようになっています。
障害があると、様々な経験をする機会がどうしても少なくなってしまいがちです。
しかし、Nさんの場合は、この10年間余りの期間に、休みの日に出かけるために、
ヘルパーさんと一緒に、バスに乗るという経験を積み重ねたことが、
今回の結果につながったようです。また、障害があるから出来ない、
以前出来なかったから無理だ、と周囲の人がはじめから決めつけてしまうことなく、
挑戦出来たことも良かったのではないかと思えます。
目標があれば、そのために色々なことが出来るようになることは多く、
仕事をするという目標が、人の行動に及ぼす影響の大きさを感じるところともなりました。
そしてそれは、障害のあるなしに関係はないと思います。
Nさんはまだ30歳代。仕事を続ける中で、これからどんな成長をされるのか、楽しみなところです。
※自閉症
コミュニケーションや対人関係の困難とともに、強いこだわりや限られた興味を持つという特徴がある発達障害。
「自閉スペクトラム症(ASD)」として、高機能自閉症・アスペルガー症候群などと共に分類されている。